CASES 症例紹介
ここでは特徴的な症例について、一部をご紹介いたします。
※手術の写真を掲載しておりますので、苦手な方はご注意ください。
小滝橋動物病院グループ全体の外科症例件数については、>こちらをご参照ください。
一般外科症例

猫の長期生存した乳腺腺癌(乳腺腫瘍)

目次


乳腺腫瘍について


今回は2015年1月の獣医がん学会にて発表した内容を少し変更してご紹介します。猫の乳腺腫瘍の症例についてです。

まず猫の乳腺腫瘍に関して簡単にご説明します。
猫の乳腺は左右に4対で合計8個あります。
乳腺腫瘍は猫の腫瘍の中で3番目に多いと言われています。
猫の乳腺腫瘍はほとんどが雌に発生し、犬と異なりその8〜9割が悪性で(犬では約半分が悪性)、肺などに転移してしまうことが非常に多い腫瘍です。
また、大きさが2〜3cm以上の場合予後が良くないとされています。
治療は外科手術が最も効果的ですが、転移している時などは手術できないこともあります。
手術では腫瘍だけでなく、周囲の乳腺組織と共に大きく切除しないと再発する可能性が増加すると言われています。



乳腺腫瘍の実際の症例


今回の症例は19歳の雑種猫で避妊済み、体重1.8kgです。
他院にて8歳で左側第1第2乳腺腫瘍の摘出、避妊を行い、11歳で左側第3、第4乳腺腫瘍の摘出、13歳、14歳で左側第3・第4に再度できた乳腺腫瘍を摘出しています。
15歳で右側にできた乳腺腫瘍を乳腺全摘出で切除しています。摘出した腫瘍は全て乳腺腺癌(乳癌)と診断されています。
当院には、1年ほど前に左腋下部にできた5mm大の腫瘤が、現在大きくなっているとのことで来院しました。
来院時には4cm大の腫瘤になっており、針生検(FNA)を行ったところ、乳腺腫瘍の可能性を疑いました。
血液検査、レントゲン検査、超音波検査では転移している所見はありませんでした。
飼い主様と手術のリスクと手術をせずに経過観察するリスク(転移する可能性、壊死・自壊する可能性)を話し合ったところ手術を行うことになりました。
手術では、腫瘍の周囲に残存した乳腺組織があったため、左側第1第2乳腺領域を、残存乳腺を含めて大きく切除しました。
また同時に腫瘍深部にあったリンパ節も摘出しました。
以下の写真が摘出した組織で、こちらは病理組織検査を行いました。
病理組織検査では以前のものと同様、乳腺腺癌とのことでした。
この結果から、以前摘出した腫瘍の周囲組織に再度乳癌ができてしまったと言えます。
今後転移をする可能性がありますが、術後180日現在問題なく経過しています。

このサイズの乳線線癌の場合、生存期間の中央値は21.3ヵ月との報告があります。今回の症例は、再発を繰り返しているにもかかわらず最初の乳腺腺癌発症から8年間という長期間生存している稀な例でした。乳腺腺癌は手術を行えば長期間生存できることもあるため、手術が有用であることが再認識させられました。

また、腫瘍が大きくなる前に発見し早期摘出することが、予後が良いと言われています。
日々猫ちゃんとスキンシップを行い、しこりがないかを触ってあげることも重要です。時々病院に連れて行って触診してもらうのもいいと思います。
もし、しこりが見つかった場合にはすぐに病院で検査してもらうようにしてください。

手術の際には乳腺組織の取り残しをせずに大きめに摘出し、再発を可能な限り予防することが非常に重要です。

当院では、腫瘍が見つかった場合、必要があれば当院腫瘍科認定医(杉山)に受診してもらうこともあります。不明な点があればお気軽に声をおかけください。

執筆担当:獣医師 磯野 新