CASES 症例紹介
ここでは特徴的な症例について、一部をご紹介いたします。
※手術の写真を掲載しておりますので、苦手な方はご注意ください。
小滝橋動物病院グループ全体の外科症例件数については、>こちらをご参照ください。

猫の慢性腎臓病(CKD)

目次


猫の慢性腎臓病について


今回は高齢の猫ちゃんで特に多い病気である、慢性腎臓病のお話しをします。
最近では、10歳以上の猫ちゃんの約30〜40%が罹患しているといわれています。
慢性腎臓病は「3ヶ月以上続く機能的および構造的な腎障害」と定義される進行性かつ不可逆的な疾患であり、最終的には末期の腎不全になってしまいます。


来院されるきっかけとしては、
「水をたくさん飲むようになった」
「おしっこによくいく」
「食欲が落ちて、痩せてきた」
「吐くようになり、なんとなく元気がない」
「口臭が気になるようになった」
「毛ヅヤがなくなった」
などが多いです。


そもそも腎臓は、体の中でできた老廃物を尿として体外に排泄したり、血液や血圧のバランスを整えたりする役割を担っています。腎臓は左右に1つずつあるため、どこか一部分が障害されてしまっても、他の部分が頑張ってくれる、実は代償機能が高い臓器なんです。
猫ちゃんの腎臓の解剖図です。
一般的に血液検査での尿素窒素(BUN)濃度、クレアチニン(Cre)濃度の上昇が腎機能の指標として用いられることが多いですが、代償機能が高いがゆえに、これらの腎数値の上昇は、腎臓の機能の約75%が障害されるまであらわれません。
そのため、一見元気そうに見えても、実は慢性腎臓病ということもよくあります。


しかし、このあとにお話しする慢性腎臓病のステージ分類は血液検査の数値で行いますが、実は慢性腎臓病は血液検査のみでは診断することができません。。。
このように、「腎機能の低下」といっても原因病態(尿路結石、尿路感染症、腫瘍など)が存在することがあり、その病態に対して早期に治療することが、腎臓へのダメージを最小限にすることにつながります。


そのため、慢性腎臓病を正確に診断するためには、様々な検査(血液検査、尿検査、レントゲン検査、超音波検査、血圧測定、腎生検など)を組み合わせて行う必要があります。



猫の慢性腎臓病のステージ分類


国際獣医腎臓病研究グループ(International Renal Interest Society : IRIS)が症例ごとの治療の決定や予後予測を容易にするために、血中クレアチニン(Cre)濃度を基準にCKDを4つのステージに分類しています。

実は、一番はじめに目に見えて現れる症状は 「水をたくさん飲むようになり、おしっこの量増える(多飲多尿)」なんです。



さらに、各時期においてタンパク尿、血圧によりサブステージに分けられ、各ステージに合わせた管理、治療が提示されています。





猫の慢性腎臓病の治療


腎臓は一度壊れてしまうと再生することがない臓器であるため、慢性腎臓病を完全に治すことはできません。
そして、タンパク尿や腎性高血圧、その他進行するにつれて現れる合併症(脱水、腎性貧血、高リン血症、代謝性アシドーシス、消化管障害)は病態をさらに悪化させ、慢性腎臓病の進行につながります。
そのため、ステージ進行に伴い現れる合併症に対して、可能な限り対処することが慢性腎臓病の進行抑制につながります。

・積極的な水分摂取(脱水の予防)
・腎臓病用の療法食
・タンパク尿の軽減
・高血圧の場合は降圧剤の使用
・リンや窒素化合物の吸着剤などのサプリメントの使用
・腎機能保護を目的とした薬剤(ベラプロストナトリウム:ラプロス)の使用
・その他、続発症状に合わせた治療
(低カリウム血症があればカリウム製剤の使用、貧血があれば造血ホルモン剤の使用、脱水があれば輸液治療、細菌感染があれば抗生物質の使用など)

慢性腎臓病は長くつきあっていく病気になるため、お薬や点滴により症状の緩和と進行の抑制をしてあげて、上手につきあっていくことが大切です。


慢性腎臓病になってしまった場合は、定期的な検診をおこなっていくことが重要であり、腎臓からのサインを見逃さないように努めることが大切です。
特に猫ちゃんは症状を隠すのが上手い動物です。
そのため、今は元気な猫ちゃんでも慢性腎臓病は早期発見が重要であるため、健康診断を定期的に行うことをおすすめします。


長くなってしまいましたが、ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
何かあれば、お気軽にご相談いただければと思います。

日本獣医腎泌尿器学会のHPにも色々と載っていますので、参照していただければと思います。


執筆担当:獣医師 岩崎 真優子