CASES 症例紹介
ここでは特徴的な症例について、一部をご紹介いたします。
※手術の写真を掲載しておりますので、苦手な方はご注意ください。
小滝橋動物病院グループ全体の外科症例件数については、>こちらをご参照ください。

猫の耳道内限局発症のニキビダニ症

目次


ニキビダニについて


猫に寄生するニキビダニは主に3種類(Demodex cati,Demodex gatoi,unnamed Demodex sp.)が知られています。
Demodex cati(ニキビダニの種名:以下D.cati)による猫のニキビダニ症は非常にまれな疾患であり、その報告は限られているため、治療法の詳細や疫学についてもなかなか確立されたものがありません。
発症要因としては何らかの免疫抑制状態の関与が考えられています。



ニキビダニ症の治療


治療方法としてはアベルメクチン系化合物やアミトラズ、外用フルララネル製剤の有効性が示されていますが、外用10%イミダクロプリド/1%モキシデクチン含有製剤や内服フルララネル製剤による治療の有効性の評価については非常にデータが少ないのが現状です。
フルララネルに代表されるイソキサゾリン系と言われる薬剤は高い効果と安全性が示され、犬のニキビダニ症の治療では近年汎用され始めています。



猫のニキビダニ症の実際の症例


当院では猫の耳道内限局発症のニキビダニ症に内服フルララネル製剤を用いたところ、速やかに改善を認めたため、第22回日本獣医皮膚科学会にてポスターセッションで症例報告させていただきました。
以下にその内容をご紹介させていただきます。
なお、内服フルララネル製剤によるニキビダニ症の治療は、あくまで効能外使用であることを飼い主様と相談の上実施させていただいております。
症例は1歳の猫さんで、3ヶ月齢時から黒っぽい耳垢が溜まり続け、それに伴って痒みも増しているという事でご来院されました。
ここのところ少し食欲も落ちたかもしれないということで体重を測ってみたところ、4ヶ月前と比較して500g近く痩せていることが分かりました。
身体検査では、
・両耳の掻破痕(ひっ掻いた痕)
・耳介の脱毛
・耳孔周囲の黒色耳垢の堆積
・体重減少
が認められました。
そこで、いくつかの一般皮膚科検査を行ったところ、耳垢の中からD.catiと考えられるニキビダニが多数検出されました。
耳介周囲の毛や、皮膚の検査、血液検査や糞便検査では特記すべき異常は何も見つからず、本症例をD.catiによる耳道内限局性の猫ニキビダニ症と診断しました。
Demodex catiに相当する虫体
治療には、すでにノミダニ予防薬として投与歴のある外用10%イミダクロプリド/1%モキシデクチン含有製剤を2週間に一度のペースで使用すると同時に3日毎に洗浄液を用いて耳の洗浄を行ってもらいました。
約60日間計4回の治療を加えてもニキビダニの減少は認められず、検査上も免疫抑制に繋がるような異常は見当たらなかったため、猫では効能外使用になる事をご了承いただき、内服フルララネル製剤を投与しました。
そこから約40日後には耳垢の量や痒みといった症状も減少し、一般状態の改善及び体重増加を認め、ニキビダニの虫体も検出されなくなりました。
さらにその後もその状態は維持され、明らかな副作用なども確認されませんでした。
また、初めて来院されてから1年経っても再発を認めていません。

考察として犬のニキビダニ症の治療で有効性が示されている外用10%イミダクロプリド/2.5%モキシデクチン含有製剤と同様の製品である猫用の外用製剤ではモキシデクチンの含有量が少ない事と、今回2週間に1度のペースで使用していた事が効果を示さなかった要因の一つであったのではないかと考えています。(ある報告では猫のニキビダニ症に対し週1回のペースで用いて効果を示したという報告あり)
最近フルララネル製剤の外用スポットオン製剤が発売されましたが、スポットオンを拒絶してしまう猫さんには内服製剤も有効となりうる可能性があると考えられます。しかしながら、ここで使用した製剤はあくまで効能外使用であるため、ニキビダニでお悩みの方で同治療をご希望の場合は獣医師とのきちんとした相談が必要となります。


執筆担当:獣医師 赤司 一昭