CASES 症例紹介
ここでは特徴的な症例について、一部をご紹介いたします。
※手術の写真を掲載しておりますので、苦手な方はご注意ください。
小滝橋動物病院グループ全体の外科症例件数については、>こちらをご参照ください。

猫の低分化型リンパ腫

目次


猫の低分化型リンパ腫について


今回ご紹介するのは猫の低分化型リンパ腫と呼ばれる腫瘍についてです。
低分化型リンパ腫とは、リンパ節や臓器でリンパ球が腫瘍化し増殖してしまう悪性腫瘍です。発生部位は様々で場所によって分類があり、消化器型、縦隔型(胸の中の胸腺と呼ばれるリンパ組織)、多中心型(全身のリンパ節)、腎臓型、肝臓型、鼻腔型、その他に分類されます。かつてはFeLV(猫白血病ウイルス)に関連した縦隔型、多中心型がほとんどでしたが、室内猫の増加によりFeLV感染猫が減り、現在では消化器型が多くを占めるようになりました。発生年齢は7〜8歳がピークと言われています。症状は発生部位によって様々です。例えば消化器型では嘔吐や下痢が出ることが多く、肝臓型では嘔吐や黄疸、鼻腔型では鼻出血が認められることがあります。



猫の低分化型リンパ腫のステージ分類


進行度合いによってステージ分類がされています。



猫の低分化型リンパ腫の治療


リンパ腫の治療は基本的には外科が適応外で(一部の消化器型リンパ腫は行うこともあります)、化学療法(抗癌剤)や放射線療法を行います。 リンパ腫の化学療法は効果が高く、最も研究されている分野で、様々なプロトコールがあります。その中でも、現在の報告ではドキソルビシンと呼ばれる抗癌剤を入れたプロトコールが、生存期間が長いとされています。

UW25プロトコール

レスキュープロトコール(最初の抗癌剤が効かなくなったときに使用する)
・ L - アスパラキナーゼ
・ ロムスチン
・ メトトレキサート(最初のプロトコールで使用していない場合)

猫の場合レスキュープロトコールで使用できる薬剤が少なく、最初のプロトコールの薬剤を最大限使用します。




猫の低分化型リンパ腫の実際の症例


今回ご紹介する症例は7歳の猫です。1ヶ月位前から時々吐くようになり、1週間前から吐く頻度が増えたとのことで来院しました。来院時には体表のリンパ節が大きく硬くなっていました。特に後ろ足の内股と首のリンパ節が腫脹していました。また、お腹の中のリンパ節、胸のリンパ節も大きくなっているのが分かりました。そこで、体表のリンパ節を針で刺して細胞を採取し(FNB)、リンパ腫の疑いがあったため細胞を専門家に診てもらうことにしました。
結果は低分化型リンパ腫でした。全身のリンパ節の腫大と、血液中へもリンパ腫が出ていたことから、「多中心型リンパ腫ステージⅤb」と診断しました。全身のリンパ腫では化学療法が第一選択となります。化学療法治療での多中心型リンパ腫の完全寛解期間(検査上異常のない期間)は3.7ヶ月、中央生存期間は4.8ヶ月との報告があります。

飼い主様と相談の上、ドキソルビシンの入っているプロトコールを行うことになりました。

最初のビンクリスチンを打ってから嘔吐が治まり、食欲も増え調子が良くなっていきました。一進一退はあったものの、9週目の時点ではリンパ節はほとんど触知できない位まで縮小していました。調子がよくなり、副作用もほとんど現れず、飼い主さんも病院に来る時以外は病気のことを忘れてしまうくらい落ち着いていました。

そこから2週間に一回の抗がん剤投与の頻度になる予定でしたが、1週間空けると下顎と腸管のリンパ節が腫大し始めてしまい、再度毎週の抗がん剤投与頻度に戻しました。毎週の頻度でもリンパ節の腫れが残り食欲の低下があったため、レスキューで取っておいたL-アスパラキナーゼを使用しました。19週目には最初のプロトコールの抗癌剤は効果がなくなり、L-アスパラキナーゼ単独で行い、21週目にはロムスチンという抗癌剤を用いる事になりました。その頃から消化管のリンパ節は大きく腫大し、食べても全て吐いてしまう状態になってしまいました。点滴や輸血等を行ったものの、抗癌剤を開始してから163日目に亡くなりました。

今回の症例の場合末期のリンパ腫であり、化学療法を行わなければおそらく2ヶ月と持たなかったと思われます。しかし、化学療法による治療で生活の質(QOL)は向上し、さらには末期にも関わらず報告以上の期間を生きることが出来ました。「抗癌剤」と聞くと副作用のことを考え奥手になってしまいますが、今回のように症状を緩和し少しでも長く共に生活することも可能です。

抗癌剤のやり方は1つではなく、注射で行うことが多いですが、内服だけで行う方法などもあります。 飼い主様と相談しながら方針を決めていきます。ご相談があればお気軽に声をお掛けください。

執筆担当:獣医師 岩崎 真優子