CASES 症例紹介
ここでは特徴的な症例について、一部をご紹介いたします。
※手術の写真を掲載しておりますので、苦手な方はご注意ください。
小滝橋動物病院グループ全体の外科症例件数については、>こちらをご参照ください。
一般外科症例

犬の前肢上腕骨の遠位成長板骨折

目次


成長板骨折について


今回ご紹介するのは成長期の犬の骨折についてです。

成長期の骨には、成長板という組織があり、そこで骨が作られ徐々に長く硬くなっていきます。
特に長幹骨と呼ばれる長い骨(腕や足の骨)には、成長板は重要な組織です。
しかし、成長板は普通の骨に比べて脆く、衝撃が加わると折れやすい組織なため、成犬の骨に比べて弱い衝撃でも折れてしまう事があります。
成長板が折れたままになっているとそこの骨の成長が妨げられ、骨が短くなる、曲がってしまう、持続的な痛みを引き起こす、などの症状が出てくることがあります。



Salter-harris(サルターハリス)分類について


成長板骨折には大きく別けて5つの種類があります(Salter-harris(サルターハリス)分類)。
青いラインが成長板です。数字が大きいほど後の障害が出やすいと言われています。 Type5は、強い圧力が加わることで成長板が機能しなくなるタイプです。



成長板骨折の実際の症例


今回ご紹介する症例は5ヶ月齢のトイプードルで、散歩中に道路の側溝に落ちてから左前肢を挙げるとのことで来院されました。触診では左前肢の肘の部分を痛がり、レントゲン検査を行ったところ、左上腕骨の成長板骨折と分かりました。先ほどのSalter-Harris分類のType4で、成長板が斜めに折れていました。
活発な性格ということもあり、放って置くとずれが大きくなり将来的に腕が曲がってしまったり、短くなる、最悪のケースでは腕を使えなくなってしまう可能性が考えられたため、オーナー様と相談の上、手術を行うことになりました。

成犬の骨折ではプレート・スクリュー法という、ガッチリとした強固な固定を行いますが、仔犬の成長板骨折ではプレートを使用すると成長を妨げてしまうため、ワイヤーとスクリューを使った術式を用います。

まず肘の上腕骨にアプローチするために、尺骨という骨の一部を切断し、視野を広くしました。
骨折端が見えたところで、横方向にはスクリュー固定(ラグスクリュー法といいます)を行い、縦方向(骨が伸びる方向)にはワイヤーを使った方法を用いました。骨折端がピッタリとくっついているのを確認した後に、先ほど切断した尺骨の切断面を戻しワイヤーにて固定しました。
術後は少しずつ足を使うようになり、2ヶ月ほどたって骨が癒合し、スクリューとワイヤーを全て抜去しました。
早めに治療できたため、足の長さは左右差なく成長することができました。
成長板骨折は早い段階で整復すればその後良好に経過することが多い疾患です。骨は成長期にしか成長しない組織なので後々障害を出さないようにするためにも、足を挙げてしまう、いつもと違う動きをする、どこか痛がっているなどの症状があればすぐに病院に来院されることをお勧めいたします。


執筆担当:獣医師 磯野 新